水質事故から考えるリスク管理
「最近、水道にまつわる事故が多い気がします。私たちが使う水道水にも影響してくるんでしょうか。」
「確かに気になりますね。こちらでは水質事故について調べてみました。」
まずは自己紹介
弊社、株式会社メイプル・リンクは、創業33年のセントラル浄水器メーカーです。セントラル浄水器『ソリューヴ』の企画・製造・販売を行なっております。長年セントラル浄水器の販売を行なっている弊社が、気になる疑問についてお応えします。
水質事故とは
私たちが日々使う水道水は、河川などの水源からの水を浄水場で浄水し供給されています。その一番上流である河川が汚染されたりすると、水質に悪影響を与えるので対策が必要になります。例えば、企業の工場にある排水処理施設から化学薬品の入った未処理の排水が流れ出るなどの事故や、それらの水が浄水場での処理過程で塩素と反応し、副生成されるような事例もあります。
水質事故とは、工場からの油の流出や、排水処理の不具合による異常排水の流出等、公共用水域(河川や海など)の水質に悪影響を及ぼしうる事故のことです。
水質事故が発生すると、魚などが死んだり、利水が停止したりと、場合によっては大きな被害をもたらすことがあります。また、新聞やテレビなどで報道されることもあります。
愛知県web 「水質事故とは」より引用
県営水道では、河川等から水を取り入れ、浄水処理を行って、水道水として供給しています。河川が汚染されると、水道水を送ることができなくなるかもしれません。水質事故対応は、県営水道にとって重要であり、水道水質センターもその一翼を担っています。
水質事故には、油類の混入、洗剤(界面活性剤)による発泡、毒物による魚浮上などがあり、その原因ごとに適切な対応が求められます。
神奈川県web 「水質事故対応」より引用
「よく企業が謝罪しているニュースとかみますね。」
水質事故の事例
「具体的な事例を挙げてみました。」
平成24年5月中旬に利根川水系の浄水場においてホルムアルデヒドが水質基準値を超えて検出され、広範囲で取水停止や断水が発生する水質事故が発生した。その原因物質は、ホルムアルデヒドそのものではなく、塩素と反応してホルムアルデヒドを生成するヘキサメチレンテトラミン(以下「HMT」)であった。
HMTは、排出者である埼玉県内の化学メーカーが群馬県の産業廃棄物処理業者に委託した廃液(処理量計約66トン)に高濃度に含まれていたもので、委託に際し、排出者はHMTを含むことについて十分な説明をしなかったため、適切な処理が行われず、5月10日から19日の間に
厚生労働省 「平成24年5月に発生した利根川水系における水質事故について」より引用
江崎グリコの関連会社「グリコマニュファクチャリングジャパン」の千葉工場(野田市)で窒素とリンの排水基準等の超過があり、水質汚濁防止法に基づく水質測定などのデータを計97回改ざんしていたことが発覚したと明らかにした。
—中略—
同社によると、2月に同工場の排水処理施設から未処理の水があふれ、外部に流出する事故が発生。事故調査の過程で、元データと県への報告書などの数値に矛盾があるのを確認。データ改ざんが発覚した。
千葉日報 「【速報】グリコアイス工場で排出基準超過 窒素・リン、水質測定などデータ改ざん97回 野田」より引用
日本製鉄東日本製鉄所君津地区(君津市)から「脱硫液」が敷地外に漏れ出した事故について、千葉県は24日、同社の水質調査で有害物質のシアンが検出されたと発表した。また、脱硫液は3カ所の排水口から敷地外に流出したとされたことも明らかにした。
千葉日報 「日鉄敷地外に脱硫液漏出 有害物質シアンを検出」より引用
北海道室蘭市内の水道水から国の基準値を超える発がん性物質ベンゼンが検出された問題で、住民説明会が15日に開かれ、ガソリンが漏出した給油所を所有するENEOS(東京都)と、運営していた北海道エネルギー(札幌市)の幹部が住民らに謝罪した。新たに3か所から基準値の最大46倍のベンゼンが検出され、汚染範囲の拡大も明らかにした。
読売新聞オンライン 「水道水から発がん性物質「ベンゼン」検出、基準値の46倍も…ENEOSなど謝罪」より引用
「北海道のガソリンスタンドのニュースは見ました。あれは、確か水道水から検出されたんですよね。」
毎年どのくらい発生している!?
「実は年間にかなりの件数報告されています。」
河川や水路に油や着色水、有害物質などが流れる、魚がへい死するなどの異常水質事故が毎年度180件以上発生しています。異常水質事故が発生すると、水道水や農業用取水などに大きな影響を及ぼすことがあります。
埼玉県 「異常水質事故」より引用
令和3年度の神奈川県内の水質事故発生件数は177件でした。(令和2年度は220件)
内訳
魚死亡 15件
油浮遊 69件
その他(着色・汚濁等)93件
水系別では、境川水系が30件で最も多く、以下相模川水系が25件、多摩川水系が23件でした。
水質事故発生件数177件のうち、事故原因が判明したものは83件で、全体の47%となっています。(令和2年度は45%)
内訳
工場など事業所によるもの 47件(27%)
工事によるもの 16件(9%)
交通事故によるもの 8件(5%)
不法投棄によるもの 3件(1.7%)
一般家庭及びその他のものが原因であるもの 5件(1.7%)
※原因別の割合は事故原因が判明した水質事故におけるものです。
神奈川県 「令和3年度 神奈川県内の水質事故発生状況について」より引用
「都道府県単位でこのくらいだと、全国ではすごい数になりそうですね。というよりも、その地域に住んでいたら結構深刻なことですよね。」
水質事故に気づいたら報告
「自治体などは、河川の異常などに気づいたら、報告する窓口を用意しています。」
河川や水路等において油や着色水の流出、魚のへい死を発見したときは、以下の点に御注意の上、直ちに管轄する環境管理事務所又は市まで御連絡ください。
水が白く濁っている、変な臭いがする、魚が大量に死んでいる、油が浮いている…など、異常を見つけたら市町村主管課または県地域県政総合センター環境部へご連絡ください。
「確かに、地域住民の協力が必要になりますよね。未然に事故を防ぐにはどういったことができるのでしょうか。」
異常水質事故の未然防止対策例
異常水質事故は、環境や健康に重大な影響を与える可能性があります。その未然防止には、個人や事業者、工事事業者の協力が不可欠です。以下に具体的な対策を示します。
個人の対策
ペンキ、油、農薬、洗剤などを道路側溝に捨てると、河川に流れ込み異常水質事故を引き起こす可能性があります。不要になったこれらの物質は、以下の方法で適正に処理しましょう。
- ・ 市の指定する収集場所や方法で廃棄する
- ・ リサイクル業者に依頼する
事業者の対策
異常水質事故の原因の約7割は工場・事業場での事故によるものです。事業者の皆様は以下の対策を講じて、事故の防止に努めてください。
- ・ 給油時の注意:給油中はその場を離れない
- ・ 防液堤の設置と確認:タンク周りに防液堤を設け、水抜きバルブの閉鎖を確認
- ・ 設備の定期点検:配管やタンクの腐食や亀裂を定期的に確認
- ・ タンク内液体の管理:液体の急減がないか残量を定期的に確認
- ・ 排水処理施設の稼働確認:排水処理施設が適正に稼働しているか定期的に確認
- ・ 緊急対策の準備:万一に備え、オイルマットなどの吸着材を用意
工事事業者の対策
工事現場での濁水や高アルカリ水の流出は、水質事故の原因となります。以下の対策を講じて、汚水の適正処理を行ってください。
- ・ 適正な汚水処理:工事現場で発生した汚水をそのまま道路側溝に流さず、適正に処理する
- ・ 環境保全意識の徹底:従業員への教育を通じて、環境保全意識を高める
以上の対策を実行することで、異常水質事故を未然に防ぎ、地域の環境保全に貢献できます。
参考:埼玉県 「異常水質事故」
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「いかがでしたでしょうか。水質事故について解説しました。」
「はい。よく分かりました。知らないところでこれだけの事故があると、自分たちでもある程度、保険的に対策が必要になりますね。」
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