事例でみる水道民営化で問題点とは
「水道の民営化って色々言われていますが、民営化することで、自分たち利用者にとってどんな問題が考えられるんですか?」
「確かに気になりますね。では、解説します。」
まずは自己紹介
弊社、株式会社メイプル・リンクは、創業33年のセントラル浄水器メーカーです。セントラル浄水器『ソリューヴ』の企画・製造・販売を行なっております。長年セントラル浄水器の販売を行なっている弊社が、気になる疑問についてお応えします。
水道民営化とは
水道民営化とは、従来の公営制度から企業が水道サービスの管理を引き継ぐことを指します。日本でも近年、地方自治体が財政難やサービスの改善を目指してこの手法を採用する自治体があり、公営の水道事業から、営利企業が運営するシステムへの変化が検討され、実際に日本でも一部民営化を行なっている自治体もあります。
水道管の老朽化や人材の問題など永続的な水道事業に関係する諸問題に伴い、公共部門の効率化やサービス向上が議論される中で議論される民営化ですが、これには様々な問題も指摘されています。
「民営化は営利企業が、全部又は一部の管理を担うイメージですよね。実際どんな問題は考えられるんでしょうか。すでに、海外でも多くの事例があるんですよね。」
水道の民営化で議論されている問題点とは
アクセス格差の拡大
水道民営化により、一部の地域や低所得者層へのサービス提供が不安定になるケースが見られます。企業側が利益の見込みの少ない地域において、サービスの提供を減らすことがあります。結果として、地域間でのアクセス格差が広がり、特に経済的に不利な地域や家庭にとっては深刻な問題となっています。
価格の上昇
民間企業が水道サービスを提供する場合、収益性を確保するために料金を引き上げることがあります。これにより、水道料金が上昇し、住民の生活費に負担がかかることがあります。特に低所得者層や高齢者などの経済的に弱い立場の人々にとって、この負担は大きなものとなります。
サービス品質の低下
民間企業が水道サービスの運営を担当する場合、サービス品質の低下が懸念されます。経営側がコスト削減を優先し、メンテナンスや設備の更新、顧客サービスが不十分になることがあります。その結果、水漏れや水質の悪化などの問題が生じ、住民の生活に支障をきたす可能性があります。
利益優先主義の影響
民間企業が水道事業を運営する場合、利益の最大化が企業の中心となります。このため、地域社会や公共性を重視することが十分に行われないことがあります。企業側の利益追求が公共の利益や地域のニーズを押しのけ、サービスの質や公平性が損なわれる恐れがあります。
環境への影響
水道民営化は、環境への影響も懸念されます。民間企業が利益追求を優先する傾向があるため、環境への配慮が不十分になることがあります。水源の過剰利用や水質汚染などの問題が生じ、地域の生態系や人々の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
「これらの問題は、簡単に想定できますね。営利企業ですから、当初は問題がないように見えても、営利企業が途中でポリシーを変更することはあり得ます。人が生きている以上、水道はずっと続くことですから…。特にコストカットによるサービスやメンテナンスの劣化などが起こった場合、利用者側からすると民営化する意味がみえませんね。」
具体的な事例
多額の借金、下水垂れ流し、漏水、断水
「サッチャリズム」のもとで1989年に誕生したイギリス最大手の水道会社テムズ・ウォーターが経営危機に陥っています。同社はロンドンとイングランド南東部で1500万人に上下水道サービスを提供していますが、自己資本の8割に昇る140億ポンドの負債を抱えています。
さらに同社は、未処理状態の下水を複数回、河川に流出させたり、猛暑と渇水の22年の夏に長期間の断水を発生させるなど、水道の基本的な仕事ができなくなっています。
yahoo!ニュース 「「民間に任せても万事うまくいくわけではない」を証明したイギリスの民営水道テムズ・ウォーター」より引用
テムズ・ウォーターは、1989年に民営化されたイギリス最大の水道会社ですが、現在は経営危機に陥っています。ロンドンとイングランド南東部で1500万人に上下水道を提供する一方で、140億ポンドもの負債を抱え、未処理の下水を河川に流すなど、水道事業の基本機能すら果たせていません。民営化により効率化が期待されましたが、実際には水道料金の上昇、サービスの質の低下、そして多額の株主配当が問題視されています。最近の調査では、63%の英国民が水道事業の再国有化を支持しています。
「海外では実際民営化してもうまくいかずに再公営化の議論が出ている話はよく見ます。」
サービスに関する直近の日本の事例
安曇野市は、市内の男性が、水道料金の滞納分を納付したにもかかわらず、70日間にわたって給水を再開しませんでした。
市は給水を再開した上で男性に謝罪しています。
安曇野市によりますと、市内の男性が、ことし4月6日に滞納していた数か月分の水道料金を全額納付したにもかかわらず、その後、70日間にわたって、給水を再開しなかったということです。
料金を納付してからおよそ2か月たった6月に、男性の家族の関係者から問い合わせがあり、市が事実を把握したということで、その2日後に給水を再開し、男性に謝罪しました。
本来は、開栓業務などを担う委託業者が、直ちに給水を再開することになっていますが、継続的に水道料金が支払われるか不安に思い、給水を再開しなかったことが原因だということです。
安曇野市は「絶対にあってはならないことなので、委託業者への管理監督を徹底し、再発防止に努めます」としています。
NHK 「水道料金滞納分納付後も70日間給水停止 安曇野」より引用
長野県安曇野市の男性宅で、滞納していた水道料金を支払ったにもかかわらず、70日間にわたり給水が停止されていたことが分かった。市によると、水道料金の検針・徴収などを行う委託業者のヴェオリア・ジェネッツ(東京)が開栓作業をしなかったことが原因で、市は男性に謝罪した。
同市では、水道料金の滞納者のうち、督促に応じず、支払い困難の申し出もない世帯が給水停止の対象となる。完納したり、分割納入の意思が確認されたりした場合は速やかに開栓し、給水が再開される。市は委託業者が作った滞納者名簿を基に給水を停止するが、開栓業務は業者に任せていた。
男性は滞納分を4月6日に納めており、本来すぐに給水を再開しなければならなかったが、開栓されず水道が使えない状態が続いた。男性の親族の問い合わせで判明し、市は6月15日に給水を再開した。
市上下水道部経営管理課は開栓が見送られた理由について、「委託業者の担当者が、今後の水道料金の支払いに不安を感じた」と説明している。市は、給水を停止した世帯の収納状況の確認を徹底し、再発防止を図るという。
読売新聞オンライン 「滞納していた水道料金払ったのに…「今後の支払いに不安」理由に70日間給水再開せず」より引用
長野県安曇野市で、水道料金を滞納していた男性が支払いを完了したにもかかわらず、委託業者ヴェオリア・ジェネッツのミスにより、70日間も給水が停止されたままだったことが発覚しました。市は通常、支払いが確認され次第、速やかに給水を再開するべきですが、委託業者が開栓作業を怠ったために、この事態が発生しました。市は男性に謝罪し、今後同様の問題が再発しないよう、滞納者の状況確認を徹底する方針です。
「そもそも水道は、普通のサービスと違ってインフラですよね。人間が生きるために必要なものなので、水道料金の検針・徴収の委託業務権限の範囲でこういう対応が起こると、何か問題が起こった時不安を感じますね。」
「このニュースからは以下のような課題が見えてきます。」
支払い済みでも給水停止のリスク
滞納した水道料金を支払ったにもかかわらず、給水が停止される可能性があり、これは市民にとって不安を引き起こします。
委託業者による管理不備
委託された業者が支払い情報を正確に処理せず、給水停止が続く場合があります。市民にとって、この委託システムの信頼性が問題です。
情報提供とコミュニケーション不足
市と市民の間での情報共有やコミュニケーションが不足しており、問題解決に適切な対応がされていないように見受けられます。
ここからわかるのは、市と委託業者の連携改善や、市民とのコミュニケーション強化が必要です。そして、透明性と信頼性を確保し、市民の安心を取り戻すことが重要になります。
「誰にでも起こる可能性があることですからね。それを営利企業の裁量で処理されると問題ですね。」
どのような対策が考えられるか
公的な規制の強化
政府や地方自治体は、水道民営化における公共性やサービス品質の維持に関する規制を強化する必要があります。公正な価格設定や適切なサービス水準の確保など、企業の行動を監視し、適切な規制を行うことが求められます。
利害関係者の意見を考慮した上での改革
水道民営化に関する政策の策定や改革に際しては、地域住民や利用者、専門家などの意見を積極的に取り入れることが重要です。地域の声を反映させることで、サービスの質や公平性が向上し、地域社会の信頼が築かれます。
水道民営化の限界と公共性の重要性の再確認
水道民営化は効率性や競争力の向上を目指す一方で、公共サービスの性格を持つ水道業界においては、公共性や社会的責任の重要性を再確認する必要があります。利益追求だけでなく、地域の福祉や持続可能性を考慮した経営が求められます。
「このようなニュースを見ると、海外で一度は民営化になったものの、再度公営化の議論が起こることはよく分かります。公共性の高い水道の安易な民営化は我々利用者にとっては大事な問題なので、注視しなければいけないですね。」
まとめ
「いかがでしたでしょうか。水道民営化で問題になることについて解説しました。」
「はい。よく分かりました。水道は生きるために必要な公共インフラですから、営利企業の効率性だけで運営すると様々な問題が出てきますよね。」
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